ドイツにある私立一貫学校の一つ、Freie Waldorfschule(自由ヴァルドルフ学校/シュタイナー学校)。
我が家の娘はドイツ移住後、1-5年生までドイツのシュタイナー学校に通いました。
そもそも、
「シュタイナー教育って何?」
「シュタイナー学校ってどんなところ?」
という方は、多いかもしれません。
日本ではドイツ文学者でもある著者の子安美知子さんが、1975年「ミュンヘンの小学生」という本で、娘さんの子安文(フミ)さんが通ったドイツシュタイナー学校での体験談を出版し知名度が上がりました。この本に出てくるミュンヘンのシュタイナー学校は、2020年現在もミュンヘンの街中にあります。
余談ですが、3年前に娘の転校と併せてミュンヘン市内の学校をリサーチしていたとき、この本に出てくるミュンヘンのシュタイナー学校の立地を確認するため訪れたことがありました。
その時、自然派のシュタイナー教育だから、緑に囲まれているかと思っていたら、片道2車線の市内に一直線に続く大通り(Leopord str.)沿いにあり、U-bahn(地下鉄)駅からのすぐの学校の隣にマクドナルドがあったことが結構衝撃でした。(現在はマクドナルドはなくなっています)
ちなみに本の中でも地区名や地区の描写がでてきますが、この学校のあるSchwabing(シュヴァービング)地区は、ミュンヘンでも地価が高く、昔は芸術家や作家、思想家、政治家などが好んで住んだ地域です。かつてはヒットラーもこの辺りに住んでいたそうです。大学も近くにあることから、学生やアーティストも多くとてもオシャレな地域で、富裕層も多いです。
現在、ミュンヘンにはシュタイナー学校は3校ありますが、このSchwabingにある学校が一番古い学校です。
最近では、俳優の斎藤工(たくみ)さんが通った学校(日本)として再度知名度が上がりました。(ちなみに斎藤さんは、サッカーの強い中学校へ転校するため、6年生の時に公立小学校に転校したそうです)
日本ではブランド化しつつある「シュタイナー教育」。
そんな「シュタイナー教育・シュタイナー学校」について改めて調べてみました。
シュタイナー教育・シュタイナー学校はドイツ発祥
シュタイナー教育は神秘思想家・哲学者・教育者である、ルドルフ・シュタイナー氏が提唱した教育方法です。
1919年、ドイツ南西部にある都市シュトゥッツガルトのたばこ工場で働いている人たちの子どもが学ぶ場として、シュタイナー学校は始まりました。
当時、Waldorf Astoria*タバコ工場の責任者エミール・モルツ氏が、シュタイナー氏の労働者の精神論の演説に共感し、タバコ工場で雇用している人たちの子どもが通う教育施設を作って欲しいという依頼が始まりでした。
*ドイツではシュタイナー学校は「Waldorfschule(ヴァルドルフシューレ)」と呼ばれますが、このタバコ工場の名前から来ています。
2019年に100周年を迎えたWaldorfschule(シュタイナー学校)。
現在は、世界中に広がり1899校のシュタイナー学校(Rudolf-Steiner School)含めた関連教育機関があります。(参考URL)
そのうち1353校(幼稚園も含む)はヨーロッパにあります。
ドイツ国内でも私立校を探すと必ず出てきますが、発祥のシュトゥッツガルトのあるドイツ南西部の州バーデン・ヴュルッテンべルグ州には54校のシュタイナー学校があり、その他の州に比べても多いです。
ドイツでのシュタイナー教育発祥の父、ルドルフ・シュタイナー氏とは?
シュタイナー教育提唱者のルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner)氏は、1861年クロアチア生まれ。
質素な家庭で育ち、ウィーン工科大学で自然科学、数学、哲学を学び1884年に大学を卒業します。
その後、ユダヤの商人家族の家庭教師をしながら、ゲーテの研究に取り組んでいました。
1899年、結婚を機にベルリンに移住し「sozialistischen Arbeiterbildungsschule(ソーシャルワーカー養成学校)という訳で正しいかは不明」で教鞭をとります。
その時に、「労働者はイデオロギー(政治や社会に対するある一定の考え方)は必要ないが、本当の”知的知識”を必要としている」と確信します。
その後、シュタイナー氏の思想に共感したシュトゥッツガルトのたばこ工場の責任者に依頼され、「Freie Waldorfschule(自由ヴァルドルフシューレ)」の創設者となります。
*参考ドイツ語文献*「Rudolf Steiner-Leben,Gedankenwelt,Impulse」Elisabeth Beringer著より
シュタイナー教育・シュタイナー学校の特徴とは?
日本の義務教育の学校とは大幅に違うシステムのシュタイナー学校。ドイツの公立学校とも違うシステムです。
シュタイナー学校では偏差値を上げるための教育方法ではなく、子ども一人一人の個性を尊重し、様々なイデオロギーにとらわれず自ら自由に生きることのできる人を育てる教育方法です。
人智学(アントロポゾフィー思想/Anthroposophie)*をベースに、スピリチュアル的要素も含んだ独特の教育思想があります。
*世界は「精神世界」「魂世界」「物質世界」における3つの構成で成り立ち、それぞれに法則があり人間もその法則に沿って生きているという考え方が大きな特徴です。教育現場では「精神」「心」「身体」の3つの世界をバランスよく育み、「しっかりとした自分を持ち、自分で決め、それを実際に責任をもって行える人を育てる」ことにつながるようなアプローチです。
シュタイナー教育の背景には、とても深い人智学的思想があることは理解していた方が良いかもしれません。
以下は、そんな小難しい哲学は除いた、わかりやすい表面的なシュタイナー教育の特徴を順にあげていきたいと思います。
まずは、私たち親子が経験したドイツのシュタイナー幼稚園の特徴です。
ドイツのシュタイナー幼稚園特徴
- おもちゃを含めて身の回りで使うものは自然素材(シルク・コットン・ウール・フェルト・木の実・貝殻など)
- 内装は淡い色合いで統一(淡いピンクや黄色など)
- 家具は重厚感のある木製のもののみ
- キャラクターものや黒はなし
- 濡らし絵の時間がある(専用の厚紙を水で湿らせ、赤・青・黄の専用絵具で様々な色合いを楽しむもの)
- オーガニック食品のみを使い、午前中の休憩時間用に野菜スープを作る
- 早期教育はしない
- 子どもの個性を尊重する
- 人形の顔には表情がない(想像力を膨らませるため・シュタイナー人形と呼ばれる)
- 生活の中にグロッケン(小さな鉄琴の一種)がある。
- キンダーライアーという小さなハープを皆で演奏する日がある
- 歌を歌い、絵本を使わない読み聞かせが毎日行われる
- 季節のテーブルという、その季節に自然の中で見つけられるモノを飾るテーブルがある(落ち葉・草花・木の実・フェルトのミニ人形・キャンドルなど)
- キャンドルを日常的に使う(お当番の子どもが読み聞かせが始まる前に用意することもある)
- 縄跳びや跳び箱など、体をおもいっきり使う遊びはしない
続いて、私たち親子が経験したドイツのシュタイナー学校の特徴です。
ドイツのシュタイナー学校の特徴
- 小学校1年生-12年生までクラス替えなし
- 担任の先生は、基本的に8年生まで同じ
- エポック授業(国語だけを3週間行い、その後算数だけを3週間行う)
- 教科書がない(先生の描く黒板絵と一緒に先生の話を聞いて想像力を膨らませる)
- テストがない
- 成績表がない(点数・ABCなどの一目で確認できる成績をつけない)
- 「フォルメン」の授業(ブロック型のみつろうクレヨンで丸や線・らせんを書き続ける)
- 手仕事の授業がある(Handarbeit)(毛糸やフェルトを使って様々なものを作る)
- 1,2年生のドイツ語の時間は、アルファベット大小26文字+ウムラウトäüö+ß(エスツェット)を習い続ける
- ノートはシュタイナー学校及び関連施設でしか買えない特注品を使う(お絵描き帳よりも厚い紙で、全ページに薄紙がはさまれたもの)
- 毎日朝の時間に、自分が生まれた時の曜日に前に出て、学年最初に先生にもらう詩を暗唱する
- 1年生からオーケストラで使われる楽器(どれでも可)を習うことを推奨される
- 体育の変わりにオイリュトミーという授業がある(シルクの淡い色合いの丈の長い割烹着のようなものを着用し、ピアノの生演奏に合わせて体を動かす。このときにバレエシューズのような靴が必要になる)
- 保護者会が毎月ある(20:00-22:00)※夫婦参加も多く、22時を過ぎることはザラにある
- 1年生から第2か国語の英語、第3か国語のロシア語(娘の学校の場合)を学び始める
- 3年生頃まで文字の読み書きや算数ができなくても、ゆっくりと時間をかける
- 足し算や掛け算は、体全体を使って遊びながら覚える方法だった
- (確か)4年生から音楽の時間にオーケストラ演奏が始まる
- 6年生からクラスで舞台演劇をはじめ、年に一度発表会のようなものがある
- かつては毎月学校で習ったことを発表する会としてMonatfeierというものがあったが、現在は年に2-3回ほどの発表会がある
- ドイツ人家庭が圧倒的に多いが、他国籍の家庭もちらほらいる
- 10人くらいの難民の子どもたちの専門クラスがあった
- 国籍問わず中流階級以上の家庭が多い(富裕層も多い)
まとめ
いかがでしたでしょうか。
ドイツのシュタイナー教育・シュタイナー学校をご存知の方もそうでない方にも伝わるように、かいつまんで書いてみました。
シュタイナー教育にベースにあるような「(社会のイデオロギーに左右されず)自由に生きることのできる人を育てる」ということに共感はしましたが「自由」の定義は幅広いので語弊があるようには思います。
ただ、私はドイツでドイツのシュタイナー学校を卒業した(元夫や元家族含め)、ドイツ人の保護者の方々にも多くお会いし悟りにも近い気づいたことがあります。
それは、学校や友だち環境もある程度は大切だけれど、どの教育方法を受けたかやどの学校を卒業したかということに固執するより、毎日家庭でどういった環境で過ごし、親がどういった接し方や言葉がけをし、親と子がどういった経験を一緒にし、どういった関係性を築き上げたかという事の方が、こどもの人格形成には多大な影響を与える、という結論に至っています。
つまるところ、友だち関係や良い先生に出会えって子どもが満足して毎日過ごしていれば、どこの学校でもどの教育方法でも良いと思います。大事なのは子どもが成人するまで家庭でどういった教育をし続けるか、だと思います。
昔の私は「シュタイナー教育」をブランド化して捉えていました。「この教育なら間違いない」と思っていたんですね。
でも、「子育て」は「親が成長すること」の方がはるかに大きなリターンがあるという思いに至りました。
自分の中にある固定概念や、夢や理想を子どもに投影したりしていないか、娘が15歳になった今も現在進行形で立ち止まって観察するようにしています。娘を「一人の個性を持った個人」として観察することで、様々な気づきがありました。
成人まであと数年。自分も親としても一人の人としても成長していきたいな、なんて思います。
学校探しで検討されている方の参考になれば、幸いです。